96年、郵政省は審議機関「多チャンネル時代における視聴者と放送に関する懇談会」の提言を発表、これまでに考察したような放送の変化の追求(あるいは放任)と、そこにおける行政権限強化の方向性について、正当化を試みたが、これに対するマスコミ界の異論や対案の提示は、ほとんどない。個別的な動きとしても、マードックの支配・介入の危険性を懸念した朝日グループは、テレビ朝日株は買い戻したものの、現に醸成されているその後の業界情勢のなかで、マルチメディア・ビジネスに関与しようとする姿勢は、かえって強めてきたといえる。マルチメディア娯楽産業への野心を明らかにするフジテレビは、マードックのデジタル衛星放送事業に、ソニーなどとともに対等出資のかたちで加わった。こうした動きは、日本のマスメディアの産業組織のあり方にさらに大きな変化をもたらし、それに伴い、ジャーナリズム、メディア文化の変質を招来しないではおかない。特に日本では、新聞・放送の一体型系列関係が強固にできあかっており、放送の産業的変容が即、新聞のあり方にも波及、その言論の独立と自由の基盤に深刻な影響を及ぼす可能性がある。新聞は、政府の規制緩和政策推進の流れのなかで、法定再販制度の撤廃、あるいは大幅修正も迫られるなりゆきとなっており、この面からも産業組織の大きな変化に向かって衝き動かされる可能性がある。政府の政策的な誘導や規制、その揺れに左右されない堅固な産業組織、市民的支持のうえに立つ言論・メディア文化の基盤をいかに確立するかが日本のメディアに問われている、といわなければならない。食通で知られる小山薫堂氏。雑誌「danchyu」で書き留めた約600軒のなかから100軒を抜粋した本を出版。彼は東北芸術工科大学デザイン工学部の講師の顔をもつほか、オレンジ・アンド・パートナーズの社長でもある。
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