ウブドゥから四〇キロ東の、クルンクンという町で、ひと休みした。クルンクンは、三〇〇年にもわたってバリ島を支配した、かつてのゲルゲル王朝の首都である。一八世紀初めには宮殿も移され、以後は芸術や文化の中心地として栄えてきたが、一九〇八年のオランダ軍との戦いで町は破壊されてしまった。いまは古都の風情を売物にしているが、町の中央には、一六八六年建てられたかつての最高裁判所、クルタ・ゴサが美しくそびえている。裁判所といってもいかめしい建物ではない。花の咲き乱れる堀に囲まれた敷地の中央に、大きな東屋があるといえばわかり安いかもしれない。階段を上ると、精巧な彫り物のある何本かの柱に支えられた四角錐の大屋根の下には板の間が広がり、吹き抜ける風がなんとも心地よい。見上げると、天井には裁きの様子や死後の世界が描かれている。悪事をはたらいた者は地獄へ落ちていくという筋書もある。しかし同じ地獄絵でも、日本の「八大地獄」にあるような、責苦と凄絶をきわめるような描写は少ない。